笑顔の向こうの君に
なんと、その声の主は

私の隣の席の人。



さっきから、

分厚い本を読んでいた彼だった。



黒ぶちメガネをはずし、

目にためた涙を拭いながら、

彼は言った。




「君、面白すぎだね。
席をひいて、
僕の方、向いたら、
動かないんだもん。

読んだ本、
戻しに行くのかと思ったのに。

ふふ、

しかも、前に僕がいることも忘れて、
キョロキョロしてるし...。クク」


まだ、笑っている。

どうやら、私は長い間、

隣の彼の本に

見いってしまっていたようだ。



ついつい、

本の世界に入り込んでしまった。


このままでは、"変な人"だ。



私は慌てて弁解する。


「い、いえ、
その本をずいぶん真剣に
読んでいらしたので、

面白い本なのかなぁ...と。」



なんか、

だんだん恥ずかしくなってきた。


すると

「この本?読みたいの?」


なぜか、彼は少し驚いた顔をしていた。


「いや、
どんな内容なのかなー
っと思っただけです。」



私が返事をすると

彼は、これから

いたずらする子みたいに、

ニヤリと笑ってこう言った。



「じゃ、
難しいかもしれないけど、
読む?」


ほい。っと渡された本を開くと

「○□○△△○□○△○□×××...。」
??

...??.....?!

え、え?

英語!?

ってことは洋書じゃん。



私がどんなに、活字中毒者でも、

読めるのは

日本語限定だ。



驚き過ぎて、言葉が出てこない。

こんなの読んでたの?


「フフ、また面白い顔してるし。」



彼はまた笑っていた。



「こんな本は、
君が読まなくても大丈夫。

君には知る必要のない知識だよ。」



と言って、彼は本を

ひょいっと取り上げた。



「すごいですね、
英語を普通に読んでた...。

英語得意なんですね。」



そのとき、

彼が寂しそうな顔をしていることに

私は気付かなかった。
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