離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活

頭はしっかりしているのに、なぜか床がぐにゃりと歪む。どうやら目と足限定でアルコールに侵されているらしい。

部屋はこの廊下の少し先。しっかりしてと足に指令を出して一歩を踏みだしたところで千景に手を掴まれた。


「夫婦なら」


そう言いながら千景は百々花を振り向かせ、ぐいと引き寄せる。まばたきを一回するまでの間に唇が触れ合った。羽毛で撫でられたような、ふわりとしたキスだった。

……え? どうして?

驚きに目を見開いたまま、その場で動けなくなる。

千景は意味ありげな目で百々花の頬にもキスをして、「おやすみ」とバスルームに消えていった。
百々花は今度こそ本当に足から力が抜け、その場にペタンと座り込む。

『夫婦なら』

千景がキスの直前に言った言葉の意味を考える。
夫婦ならキスくらいはするだろう。きっとそう言いたかったのではないか。

普通の夫婦のようにするのを希望したのは百々花。千景はそれに応えようとしてくれただけ。深い意味はないとわかっているのに、百々花は胸の高鳴りをどうしようもできなかった。

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