離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活
時間でいったらものの十数秒に過ぎないだろう。硬直したまま千景の腕に包まれた。
そんな状態だと言うのに、離れる瞬間に名残惜しさを感じる自分に気づく。
――もう少しだけ。
咄嗟に千景のジャケットを掴んだ。
「……あっ、ごめんなさい」
千景の驚いた顔を見て我に返り、すぐにパッと手を離す。恥ずかしさが一気に込み上げて頬が熱い。
「百々花」
千景が名前を呼ぶのと同時にドアがノックされた。
自分でも驚くほどの俊敏さで千景から離れる。いかにも挨拶の途中だったと装ったが、美園はどう思っただろうか。表情に変化がないところを見ると、なんとかセーフだったと思いたい。
「社長、そろそろお時間です」
淡々とした美園の言葉に「わかった」と答えたときには、千景の発する空気感がピンと冴えわたる。一瞬のうちに仕事モードだ。