離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活
「おい、田原。終わってもいないのに、打ち上げの誘いとはいい度胸だな」
千景に鋭く釘を刺され、田原が肩をすくませる。〝しまった〟といった表情だ。
「すみません」
亀のように首を伸び縮みさせながら、田原がミーティングルームから出ていく。ほかのメンバーもそれに続いて、静々と退散していく。
美園がドア近くで待っていたが、千景は「先に社長室へ戻ってくれてかまわない」と退室を促した。
誰もいなくなると、千景から威圧的な空気がふっと解かれる。厳しい表情だった顔も、突如として穏やかなものになる。
そのオンオフの切り替えが巧みすぎて言葉もない。セルフコントロールがとても上手だ。
そして、そのギアチェンジに百々花は翻弄されていた。
優しさが見え隠れする千景を知ってしまったから、人に緊張感を与える威圧的な彼も百々花の心を大きく揺さぶる。別れが待っているのだから、惹かれてはいけないとブレーキをかけるのに必死になる。
「百々花、おつかれさま」
「あ、はい。千景さんもおつかれさまです」
資料を両手で抱え、目礼も返した。