離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活


誇らしげにしていた割には慣れた様はなく、手を貸したくなる包丁さばきにヒヤヒヤした。それでも「任せておけ」と言われた手前、ぐっと堪えて見守る。
仕事はそつなくこなすであろう千景の不器用な一面に、心をくすぐられた。

バターとオリーブオイルでスライスにんにくと炒め始めると、キッチン内に食欲をそそる香りが満ちていく。そこにカットしたトマトやキャベツを投入した。トマトの酸味のある匂いが、さらにお腹を刺激する。

千景は塩コショウで味を整えてスプーンですくい、百々花に「味見して」と差し出した。

まさか、〝あーん〟ってこと……?


「少し熱いか」


千景はさらにそのスプーンにふうふうと息を吹きかけた。
そんなやり取りは想定していなかったため、血流が一気に顔に集まる。鏡を見なくても真っ赤になっているのは感じた。


「口開けて」


優しく言われ鼓動がトクンと音を立てる。躊躇いながら口を小さく開くと、そこにスプーンがそっと入れられた。
千景の目が〝どう?〟と言っているのがひしひしと伝わってくるが、味わう余裕はまるでない。
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