離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活
「お約束はございますか?」
「いえ、ございません」
百々花が首を振りながら答えると、女性は顔を曇らせた。
「大変申し訳ございませんが、お約束のないお客様のお取り次ぎはできない決まりとなっております」
当然といえば当然の応対だろう。
飛ぶ鳥を落とす勢いの社長にアポなしで会えるはずはない。そもそも、約束すら取りつけるのが難しい人物だろう。
「そうですよね。失礼いたしました。……あの、名刺だけでもお渡ししていただけるとありがたいのですが」
せめて名刺だけでも置いていきたい。
渡してもらえる確証はないが。
「承知いたしました」
女性はわずかに笑みを浮かべ、百々花の名刺を手もとに引っ込めた。
今日、百々花がここへやって来たのは予定外だった。