離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活
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穏やかな湖面に浮かべたボートで漂っているような、心地よい振動をふと感じる。ホッとするような温もりも、すぐ近くにあった。
ずっとこのまま身を委ねていたい。
遠くをさすらっていた意識が徐々に目覚めていく。なにかが背中にあたった感覚で、急激に現実へ呼び戻された。
薄暗闇の中ゆっくりと瞼を開けると、すぐそばで見えた千景の顔が離れていく。薄手の毛布を掛けられたときに、ベッドに下ろされたのだとわかった。
千景が、飲みつぶれた百々花をここまで抱き上げて運んでくれたようだ。半ば夢の中で覚えた感覚は、千景の腕に揺られていたものだったのだろう。
百々花が目覚めたと気づかない千景は、小さな声で「おやすみ」と言って、いつもしているように唇にキスを落とした。毎夜繰り返される、夫婦としての儀式に過ぎないキスだ。
――そんなキスじゃなくて。
とっさに千景の腕を掴んだ。
待って。行かないで。
喉のずっと奥に張りついて、願いが声にならない。