離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活
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千景は、百々花が玄関から出ていく気配を感じながら、ベッドの中にいた。ゴロリと体勢を変え、天を仰ぐ。
百々花が目覚めたとき、じつは千景も目を覚ましていた。というよりは、彼女を抱いた後から眠れずにいたと言ったほうが正しい。腕に抱いた百々花が疲れて眠るのを飽きもせずに眺めていた。
もしも彼女が目覚めたときにそのまま千景の腕の中に留まっていたら、夜が完全に明ききるまで抱きしめていようと考えていたが、現実は違った。百々花は腕をするりと抜け、部屋を出ていったのだ。
つまり昨夜の出来事は、アルコールがもたらせたひとときの熱情。いっときだけ燃え上がった、束の間の情事だったのだろう。なにしろ、この結婚は百々花にとって家を出るための手段に過ぎないのだから。
もしも百々花が昨夜の余韻に心と身体を預けて千景に寄り添えば、そのときは強く抱きしめて離さないと思っていたが。
それは千景の完全な独りよがりの妄想だったらしい。
ふぅと長く深いため息を漏らした。
千景が百々花を初めて見かけたのはいつだったか。もう半年ほど前になるはずだ。シュプリームウエディングが入居するビルのエントランスに、グリーンや花の世話をする彼女がいた。