離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活
真剣な眼差しで葉や花の状態をたしかめたかと思えば、小声でなにかを囁く。たぶん花や木を相手に話しかけていたのだろう。
霧吹きで丁寧に葉を湿らせ、埃などを取り除く。花や木が大好きだという思いが、ひしひしと伝わってきた。
そしていつしか、花よりも可憐な彼女の姿を見るのを楽しみにしている自分がいた。
そんなある日のこと。外出先から戻った千景が地下駐車場に車を停止させたとき、アリアシェリーとペイントされた車がちょうど発車したところだった。運転席には彼女の横顔。
しまった、彼女がグリーンの世話をするのを見損ねたぞ。
少なからずガッカリする自分をらしくないと思いながら車を降りると、その車が停車していたと思われる場所に靴が一足置き去りになっているのに気づく。
あの彼女の靴に違いない。
考えるより先に身体が動いた。それを拾い上げ、降りたばかりの車に乗り込む。アリアシェリーの場所をスマートフォンのマップで検索し、店まで車を走らせた。
気分は、シンデレラのガラスの靴を拾った王子そのもの。この持ち主を探し出し、会えるのを願う。おとぎ話の王子と気持ちがリンクしたような感覚だった。
まだ話したこともない女性に一方的な想いを寄せる自分を滑稽だと笑いながら、それとは裏腹に心が惑う。本当にどうかしていた。