離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活
波を蹴って疾走していたクルーザーが徐々にスピードダウンしていく。百々花のほうを向いていた船首が左へ舵を切った。
五メートルはあろうと思われる船体は、写真で見るよりもっと大きい印象だ。
桟橋にぴったりとつけられ、碇が下ろされる。千景は船の縁に手をかけ、甲板から華麗に飛び降りた。
百々花の救いの神。ヒーロー同然の千景の登場に、気持ちが大きく揺さぶられる。今にも抱きつきたい想いを必死で抑え、勢いよく頭を下げた。
「本当にすみません! ありがとうございます!」
なによりも、そのふた言に尽きる。
「とにかく急ごう」
「はい!」
千景とふたりで荷物を積み、そろってクルーザーに乗り込んだ。百々花が乗ってきた車は、ひとまずここに置き去りにするしかないだろう。
「少し揺れるかもしれないから、しっかり座って」
立った状態で舵を握る千景に言われるまま、長いシートに腰を下ろす。