離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活
千景は、車にペイントされた〝フラワーショップ・アリアシェリー〟の名前でも見たのだろう。
千景が胸もとから名刺を差し出してきたため、百々花も急いでエプロンのポケットから取り出す。
千景はそれをまじまじと見てから、「百々花さんか」と小さく呟いた。
彼の放つ強い空気感に見合わない優しい声が、やけにドキッとさせる。
「お手を煩わせて申し訳ありませんでした。ありがとうございます」
もう一度頭を下げてから、改めて千景を見た。
色鮮やかなネイビーのラバルトベストにグレーのワイシャツ、挿し色として着けたブラウンのネクタイがとてもおしゃれだ。
あのビルで感じたように、カジュアルなユニフォームを着た自分との違いが引け目を感じさせる。
「持ち主のもとに返せてよかったよ」
そう言われて、先ほど彼の口から出た〝シンデレラ〟を思い出した。
美しいパンプスを置き忘れるならまだしも、仕事で履きくたびれたスニーカーではおとぎ話にもならない。
恥ずかしいのと情けないのとで、百々花は顔が真っ赤になる。