離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活
昌也がそこまで言ったときだった。玄関の扉が開いたかと思ったら、千景が姿を現す。百々花と昌也の状態を見て目を見開いた。
反射的に昌也から離れる。さっきまったく外れなかった手は、すんなりと取れた。
「あの、千景さん、忘れもので――」
百々花を遮るかのように千景は素早く靴を脱ぎ、昌也の手を掴み上げた。すくみ上がるほどに眼差しが冷たい。
「あの、千景さん、違うんです」
なにがどう違うのか、自分でもわからない。ことを荒立てないように百々花が宥めようとすると、千景は百々花を自分の背後に隠すようにした。
ピリピリとした空気が立ち込める。
「悪ふざけが過ぎるぞ」
「べつにふざけてるつもりはないけど」
強気に返しているつもりの昌也の目が泳ぐ。たぶん彼も千景の鋭い目を直視できないのだろう。
千景の背中しか見えない百々花でも、千景から漂う威圧感に圧倒されそうだ。