離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活
「そろそろ始めるか」
軽く汗ばんできたところで昌也に声をかけると、彼は軽く腕と首を回して「よし」と答えた。
得点はラリーポイント方式。サーブ権なし、一ゲーム十一点先取の五ゲームマッチだ。
サーブを打った昌也の球が、フロントウォールから跳ね返る。千景は難なくそれを返し、ラリーが続いていく。
スカッシュをするうえで最も大切なのは、コートの真ん中部分であるTポジションを取ることといっても過言ではない。
サイドウォール際を狙って相手を左右に走らせ、自分はTポジションをとるのだ。そうすることで相手の体力を消耗させ、取りにくいボールで翻弄する。
ところが相手は、現役のインカレ出場経験者。そう自在に操れなくて当然。どちらかといったら千景のほうが左右に振られている気がしてならない。
しかも左寄りが多いため、右利きの千景はバックハンドになる。つまり不利なサイドだ。
キュッキュッというシューズの音とボールが弾む音、それからふたりの息づかいだけがコートに響く。昌也は余裕の表情で、終始ラケットを振った。
そして、十一対六というスコアで昌也が大きくリードし、一ゲーム目が終了。
――くそっ! 負けていられるか。