離婚前提。クールな社長と契約妻のとろ甘新婚生活
忙しい千景を店内へ引っ張ってきたのは自分。御馳走するといったコーヒーも出さずに帰らせるという不始末にほとほと呆れる。
「大丈夫ですか?」
高校生の女の子が不安そうに百々花の顔を見る。
「あっ、ええ、大丈夫ですよ」
取り繕って笑顔を浮かべたものの、申し訳ない思いは増幅するいっぽうだ。
きっと千景は百々花を、ひとつのことに夢中になると、ほかは頭から抜ける忘れっぽい女だと思っただろう。
駐車場に靴を置き忘れ、次は大切な未来の顧客を忘れるくらいだ。
仕事をもらえるどころの話じゃない。敬遠されておしまい。
ため息をつく一歩手前で女の子の存在に気づき、慌てて気持ちを切り替える。
いけない。接客中だわ。
笑顔を浮かべ、そっと差し出す。
「大変お待たせいたしました」
「とっても綺麗。母もきっと喜びます」
出来上がった花束を見つめ、女の子は顔を綻ばせた。