死者の言葉〜最期のメッセージ〜
そう安心したように微笑む男性に、「誰でも突然拘束されたら暴れると思いますが?」と藍は言った。

「そういえば、まだ名前を教えていなかったね。僕は睦月圭(むつきけい)。あなたにお願いしたいことがあって連れて来たんだけど……」

「お願い?」

「ある人を解剖してほしいんだ。でも、君の働いてる研究所にも解剖をお願いしたからその結果が来てからになるかな」

睦月圭の誘拐した理由を聞き、藍は驚く。誘拐されたことなどないが、普通は身代金目的などで人を攫うのではないのだろうか。

「だから、君に乱暴なことはしたくない。だって妹の無念を晴らしてくれる存在だと思うからね」

そう言い、睦月圭はスプーンでリゾットをすくい、藍の口元に持っていこうとする。

「自分で食べるので手錠を外してください」

藍がそう言うと、「だって逃げられるかもしれないし」と睦月圭は首を横に振る。

「なら食事は結構です」

藍はおいしそうなリゾットから顔を背け、呟く。しかし言葉とは裏腹にお腹が盛大に鳴った。そして藍は、夕食を食べていなかったことを思い出して恥ずかしくなる。
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