死者の言葉〜最期のメッセージ〜
「妹さんは、殺されてはいません。沙羅さんはご自分で包丁でお腹を刺して亡くなったんです。死因は何度も腹部を刺したことによる失血死です」

藍がそう言うと、睦月圭は「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」と大声を上げ、部屋を走り回る。藍の体がびくりと大きく揺れた。

やがて叫び疲れたのか、しばらくすると睦月圭は怒りに満ちた目を藍に向ける。

「なぜ?沙羅は殺されたんだ。あの……あの三人に!」

藍は首を横に振る。

「沙羅さんのご遺体の傷は、お腹に集中していました。そしてその傷は全て内臓には達していませんでした。もしも人に刺されたのなら、内臓も傷つくはずです。これは、沙羅さんがご自分でお腹を刺したために、怖くて深く刺せなかったのだと思います」

真実を話すことを藍は選んだ。死者に嘘はつけない。そんな死者の言葉に唯一耳を傾けられるのが藍たち監察医だ。死者の言葉を勝手に変えてはいけない。藍は真実を教え、それを受け止めてもらおうと思ったのだ。
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