キミに伝えたい愛がある。
空くんはきちんと靴を並べ、「お邪魔します」と言うと祖母の後を着いていった。


私は部屋にバッグを置いてから台所に向かい、2人と一緒に料理をした。



「ちえ子さん、これは乱切りでよろしいですか?」


「あんた、すごいね。切り方バッチリだ」


「母が料理教室をやってるんです。母が料理しているのを見たり、その手伝いをしたりしている内に料理するのが好きになって...。簡単なものなら、自分で作ります」


「感心だねえ。じゃあ、分量教えるから切ったやつ煮とくれ」


「分かりました」



祖母と空くんは終始楽しそうに作業を進めていた。


ここでもやはり戦力外の私は、出来た物を並べたり、箸や取り皿を並べたりするなどしか出来なかった。


料理も出来て勉強も出来て楽器も出来る。


そんな完璧な人に私は必要なのだろうか?


空くんの隣に私がいる意味ってあるのかな?



「ちーちゃん煮物出来たよ!」


「では、食事にするかのぉ」



30分ほどで料理は全て揃った。


今日の献立は麦ご飯、けんちん汁、豚の角煮、ほうれん草とひじきのおかか和え。


ちゃぶ台いっぱいに並べられた料理に心が踊る。



「では、いただきます」


「いただきます!」



空くんが真っ先にけんちん汁を飲み始める。



「あっ...美味しい!ちえ子さん、美味しいです!」


「そりゃあそうだよ。私が出汁から取って作ったんだから。手間隙かかった料理は美味しいんだよ」


「本当にその通りですね!感動しました!」


「お代わりいっぱいあるからどんどんお食べ」


「ありがとうございます!遠慮なくいただきます!」



空くんに祖母の美味しい手料理をわかってもらえて良かった。


空くんと笑顔で食事出きるなんて久しぶりだ。


いつも緊張して食べた気にならないのだけれど、ようやく味をしっかり感じられた気がした。


1歩空くんに近づけたかな?


これからも1歩ずつ近づいて行こう。


少しずつお互いを知って行ければいい。


少しずつ...


少しずつ...。



「僕ちゆりさんと同じ大学に行きたいんです」


「そうなのかい?じゃあ、あんたも栄養士になりたいと」


「栄養士...ですか?」


「違うのかい?」



私は箸を置いた。


一気に食欲がなくなった。


2人から目をそらし、俯く。


まさかこのタイミングで...。



「あんた知らなかったのかい?ちゆりちゃんは栄養士を取るために短大に行くんだよ」


「ちーちゃん、それほんと?」



私はこくりと頷いた。


空くんと目を合わせられない。


手が震え、また冷や汗が背中を通る。


何を言われても仕方ない。


言わなかった私が悪いんだから。



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