キミに伝えたい愛がある。
「あぁ、終わっちゃった...」


「大会は終わったけど、定演あるじゃん。それまでまだ楽しめるよ」


「そうだけど、なんか1つ1つ楽しみが減ってくのが辛い。永遠に高校生でいい!」



めぐちゃんはごねているけど、私は終わった寂しさより達成感の方が大きかった。


サード、ファースト、サードと1曲でこんなにポジションが変わること今まで無かったもん。


怒濤の3ヶ月だった。



「あ、じゃあウチお母さんのとこ行ってくるね。ちーちゃん家はおばあちゃんか。後で挨拶させてね」


「うん。わかった」



めぐちゃんと分かれ、私は裏口に向かった。


裏口というのは、楽器を搬入する入り口のことで、同じような景色の続く廊下を歩いて行かなきゃならないからけっこう迷いやすい。


案の定私は迷ってしまい、恐らく通ったことのある道を何回も通っていた。


学習能力の低さが露呈している。


1回来た道くらい覚えてよと自分にムチを入れるが効果無し。


このままでは空くんを待ちぼうけさせてしまう。


係りの人に聞くしかないか。



「あのぉ、すみません」



と女性スタッフに話しかけたその時だった。



「ちー!」



うそっ。


まさか、ここでも遭遇?!



「ちーお疲れ。ったく、探したんだからな」


「へ?」


「何とぼけてんだよ。俺観に行くって言ったよな?」


「そうだけど、まさかこんな舞台裏まで来るとは思ってなかったから」



りっくんが微笑む。


ステージのライトより眩しいくらいに、りっくんの笑顔が輝いて見える。


朝早かったから目が疲れているのかもしれない。



「ちーにこれ渡したくて持ってきた。はい」


「えっ!すごい!」



りっくんから受け取ったのは、向日葵の花束だった。



「こういうコンサートってさ、プレゼントは花束なんだろ?毎年来てるからさすがに学習したよ」


「すっごく嬉しい!りっくんありがと」


「どういたしまして。ちーに喜んでもらえて俺も嬉しい」


「何かわざとらしいんだけど...」


「心の底から嬉しいって思ってるから」



りっくんが必死に訴えるのを見て笑ってしまう。


考えてみれば、今こんなところにいてはいけない。


空くんのところに行かなきゃ。



「りっくんごめん。私行かなきゃならないんだ」


「行くってどこに?」


「楽器搬入した裏口」


「何か忘れ物でもした?」


「いや、そのぉ、そういう訳ではなくて...」


「じゃあどういうわけ?」



困ったなぁ。


どうやって切り抜けたらいいか全く分からない。


っていうか、なんでりっくんがそんなこと気にするの。



「どういうわけもこういうわけもなくて...。とりあえず行くね」


「ちー、待って!」



りっくんに対して申し訳ない気持ちになるのはなぜなのか自分でも分からなかった。


ただ、何も考えないように、私は走り出した。


りっくんの寂しそうな顔を全力で振り払いながら。


そしたら奇跡的にあの場所にたどり着いた。


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