キミに伝えたい愛がある。
「ちゆりちゃん!来てくれて良かったあ!」


「ごめんね。私道に迷っちゃって遅くなっちゃった」


「いいよそんなの。気にしないで。それよりこれ...」



あっ...と呟いてから正直に答えた。



「これね、私の幼なじみからもらったの」


「幼なじみ?」


「うん。幼なじみの速水陸くん。家も近くて幼い頃から仲良くしてもらってたんだ」


「ふぅん」



つまらなさそうに空くんが答える。


そりゃそうか。


私の思い出話とか聞きたくないか。



「あっ、ごめんごめん。それより、今日の演奏良かったよね。金賞取れるといいね。発表何時頃だっけ?」


「...待てない」


「待てない?でも今日中に...」


「そういうことじゃなくて」



次の瞬間だった。


私は空くんの腕の中に吸い込まれた。


その衝撃から花束はするりと手からすり抜け、地面に落下した。


乾いた音が聞こえたけど、それ以上に自分の胸の鼓動が大きく聞こえる。



「空くん...」


「ちゆりちゃんは今日から僕のカノジョってことでいい?」


「あっ...えっと...その...。いい...よ」


「ありがとう。じゃあ今日からちゆりちゃんは僕のものだ。誰にも渡さない」



空くんがそんなことを言うとは思わなかった。


それに何をそんなに焦る必要があるのか私には理解出来なかった。


でも、2ヶ月先の約束が前倒しになっただけで、いずれはこうなるはずだったのだから、いいや。


なんて思っていると、



「ちー!」



りっくんが私を呼ぶ声が聞こえた。


その声の方へ駆け出したくなる感情を空くんの腕が抑える。



「ちー...」



背中に感じる視線。


だけどもうどうすることも出来ない。



「ちゆりちゃん、ごめんね。離すよ」



体に残る熱に、空くんの想いの強さを実感した。


それと同時に心の奥にくすぶる何かを感じたけど、鈍感な私には理解出来なかった。


こんな自分のせいで他人を知らず知らずのうちに傷付けていたとしたらどうしよう...。


そんな不安が胸を覆った。



「もしかして速水陸くんですか?」


「あぁ」


「ご紹介遅れました。僕はちゆりちゃんとお付き合いさせていただいている、青木空です。今後もよろしくお願いしますね。では、僕たちは会場に戻りますので失礼します」



空くんに右腕を引かれ、私はその場を後にした。


向日葵の花束とりっくんを残して...。



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