キミに伝えたい愛がある。
「ちゆりちゃん、今日も送ってくよ」


「あらあ、ちーちゃん、愛されてますなあ。羨ましい限りだわ」


「ちょっとぉ、めぐちゃん。茶化さないでよ」


「じゃ、ウチはここで。ラブラブなお2人さん、バイバーイ!」



めぐちゃんが別の電車に乗って行ってしまうと、私は急激に寂しくなる。


空くんがいるからいいじゃないかと普通の人は思うだろうけど、私の中でそれとこれとは別なんだ。


めぐちゃんといると安心するのに対して空くんは緊張しかない。


上手く話せないし、話していても別のことを考えたりしている。


交際ってもっと楽しいものだと思っていたけど、どうやら違うみたいだ。


私にとっては毎日が試練になっていた。



「ちゆりちゃんってさ、8月5日って空いてる?」


「8月5日?...うん、まあ、大丈夫だと思う」


「その日さ、花火大会があるって知ってる?」


「うん、学校の近くの川沿いでやるんだよね」


「それに行きたいんだけど、いいかな?」


「もちろん。楽しみにしてるね」


「じゃあ、待ち合わせ時間は追々考えるとして...。ちゆりちゃんは屋台で何食べたい?僕はね...」



8月5日。


その日は、私の家の近くの神社で夏祭りが行われる日でもあった。


確か、めぐちゃんはりっくんを誘っていたと思う。


私達3人は小学6年生の時まで毎年一緒に行っていたからなんの違和感もないけど、今年コバンザメはいなくなる。


そもそも夏祭りとか、騒がしいところが嫌いな私は極力行きたくなかった。


3人で行っていた時も、私は一刻も早く帰りたかった。


めぐちゃんが紫陽花の描かれた黒と紫の大人っぽい素敵な浴衣を身に纏っているのに、私は私服にスニーカー。


帰る気満々で数時間を過ごしていた。


そんな私の気持ちを悟られていなかったか、今では不安しかない。



「次はヤマブキ町、ヤマブキ町...」


「あっ、もう降りる時間か。いやあ、ちゆりちゃんと話してると短く感じるなぁ」



私は毎日長く感じる。


時には1人で帰りたい時もある。


でも言えない。


傷付けるのが怖いから。


いや、本当は自分が傷付くのが嫌なだけだ。


拒まれた時にどうしたら良いか分からないから、こうして平和を保っている。


不協和音を聞きたくない。


ただそれだけなんだ。


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