副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
四時間ちかくかけて、岐阜の地に降り立った。
幼い頃見た景色は、こんな感じだっただろうか。

とりあえず、予約をした宿にチェックインして、一息ついた。
出されたお茶をいただきながら、非日常的な平日の夕方を噛みしめる。

「はあ……私、ずっと無理してたんだなあ」

しばらくボーッとすごした後、夕飯の前に温泉に入ることにした。
平日だけあって、人は少なく、落ち着いてお湯に浸かることができた。


しばらく目を閉じて座っていた。
ここ数日のことを思い出す。


啓太さんの、あの素のように見えた笑顔も、抱きしめてくれた腕の暖かさも、たくさんあまやかしてくれた全てのことが、嘘で塗り固められたものだったんだ。

酷いことをされてショックを受けたのに、不思議と恨む気持ちが生まれてこなかった。
逆に、話を引き受けた自分が悪かったと思えてくる。
ただただ、彼の元を離れたいという想いばかりが強くなる。


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