副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
啓太さんはあと数ヶ月もすれば、立花さんと結婚するのだろう。

それは、以前啓太さんが話していたような、希望通りの恋愛結婚なのだろう。
今の私には、とてもじゃないけど祝福できない。
そもそも、私からの祝福なんて、望むはずもないだろうけど。

やっぱり、静岡にもどろう。


温泉を出て少しすると、夕飯が運ばれてきた。
きのこや野菜など、地のものをふんだんに使われた料理が、少しだけホッとした気分にさせてくれる。

飛騨牛のしぐれ煮や、郷土料理の朴葉寿司など、とにかく贅沢なメニューが並んだ。
そういえば、朝からコーヒーしか口にしていなかった。

思い出したら急にお腹がすいてきて、すべてきれいに食べられてしまった。

今日はもう、このまま部屋でゆっくりしていよう。
そう決めて、ふとスマートフォンを手にした。
そういえば、電源を落としたままだった。
何か、重要な連絡があるといけないからと思い、少し迷ったものの、電源を入れてみた。

えっ…………

メールに電話に、啓太さんからのおびただしい着信が並んでいた。
それから、篠原さんからも。


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