副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
朝市を堪能しながら、軽めのランチをすませ、宿に戻ってきた。
なんだか惜しむかのように、再び温泉に入ることにした。
あまりの心地良さに、ずっとここにいたいなんて、非現実的なことを思ってしまう。


夕食までの時間に、昨日買った文庫本を手にしてすごしていた。
行きの新幹線では、現実逃避するかのように読み込めていたのに、昨日、篠原さんと話したせいか、いろいろ考えてしまって、集中できない。

やめとけばいいのに、未練がましくつい、スマートフォンを手にして電源を入れてしまう。

メールも電話も、東山さんからの着信がさらに増えていた。
時間に関係なく、かけてきているようだ。

拒否……してもいいかなあ……

私はそれだけのことをされたと思う。
恨む気持ちはなくても、自分のためにこれ以上関わっていたらいけないと思い、着信拒否にして、電源を入れたままにしておいた。


夕飯を食べ終えて、もう一度温泉に入り終えると、早い時間だったけど、布団に入ることにした。今夜は一度も、着信音がならない。
そのことに、すごく安堵した。



< 171 / 239 >

この作品をシェア

pagetop