副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
東京にもどってくると……鈍色の空が広がっていた。
まるで、私の心の中を見透かされているようだ。
私の心の中も、淀んだまま。


約束の時間まで余裕があったから、いったん荷物を置きに、自宅に立ち寄った。
金曜の夜に外したネックレスと指輪が、適当に転がっている。

ー返さなきゃー

そう決めたけれど、まだ触る気すらしない。



約束の時間の少し前に、待ち合わせのカフェを訪れた。
篠原さんが来るまで、コーヒー飲みながら、窓の外を眺めていた。

「美鈴ちゃん、ごめん。待たせたか?」

「いいえ。私もさっき来たばかりです」

「じゃあ、ちょっと移動しよう」

篠原さんは、私の伝票をさっと取ると、素早く支払いをすませてしまう。

「お金、払います」

「これぐらいいいの。上司の奢りだ。
特に希望がなければ、お店は俺に任せてもらっていい?」

「はい。大丈夫です」

そうして連れて来られたのは、おしゃれな和風創作料理のお店だった。
事前に予約をしておいてくれたようで、私たちはふすまで仕切られた個室に案内された。
とても静かで、都内とは思えない、落ち着いた雰囲気だった。



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