副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
「篠原さん、私…………」

「ん?」

「私、東山さんと結婚するどころか、付き合ってさえいなかったんです」

「えっ?どういうこと?あんなに仲良さそうだったじゃないか」

「付き合ってはいませんでした」

「どういうことか聞いても?」

「…………はい」

篠原さんに、私は抱えきれなくなった気持ちを話した。

「東山さんと私の最初の出会いは、以前お話しした通り、私が5歳の時です。偶然、同じピアノ教室の、同じ先生に習っていました。年に一回、同じ発表会に出ていて、そこで初めてお見かけしました」

一息ついて、再び話し出す。

「当時は全く接点はなかったんですけど、お互いに、その時のことを覚えていて……ドレスを選んでいただいたあの日、食事に誘われて、そういう思い出を話していました」

篠原さんは、眉間にシワを寄せながら私の話を静かに聞いてくれていた。



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