副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
「美鈴」

少しして、東山さんに名前を呼ばれた。

「君と連絡がつかなくて、すごく心配した。メールも電話も拒否されてしまって、わけがわからなかった。とにかく美鈴のことが心配で、こうして篠原さんに協力してもらって、美鈴を呼び出してもらったんだ」

私は、俯いたまま東山さんの言葉を聞いた。

「すまなかった、美鈴。僕のせいで、たくさん嫌な思いをさせてしまって、本当にすまなかった」

再び頭を下げる東山さんに、意を決して話しかけた。

「東山さん、顔を上げてください。
すみませんが、地元の仕事を紹介してくださらなくて結構ですので、婚約者の役をする契約を、破棄させてください。私にはもう無理です」


しばらく、沈黙が部屋を支配した。


「ああ、わかった」

自分から言い出したことなのに、涙で視界が霞む。

「いただいた物は、後日お返しします」

「それは受け取れない。全部、美鈴のことを真剣に考えて、嘘偽りのない気持ちで選んだ物だから」

「そんなこと……そんなこと言わないでください。これ以上、私を苦しめないでください」

言い返そうとする私を、東山さんが手で制した。

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