副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
12時少し前に、大方のすり合わせは終わった。

「今日ご提案していただいたことをもとに、社内でもう一度検討します。おそらく、Y.Sパートナーズさんにお願いすることになると思います」

「よろしくお願いします」

「それにしても、篠原さんは優秀な秘書をお連れですね」

東山さんが、突然仕事と関係のないことを言い出して、私に目を向けた。

「そうなんです。佐山がいなくては、うちの会社は回らないって言われるぐらい、貴重な社員なんですよ」

「篠原さん、変なこと言わないでください」

「ははは。それじゃあ、引き抜くわけにもいきませんね」

「それはダメですよ」

「それは残念ですね。
篠原さん、この後もし予定が空いていたら、食事でも一緒にどうですか?篠原さんとは年もちかいし、話が合いそうだ」

「佐山、この後は何もなかったよな?」

「はい。大丈夫ですよ。私の方は午後から社長に同行する予定があるので、先にもどってます」

「そうか。美鈴ちゃんは次があったか」

その発言に、東山さんが怪訝そうな顔をする。

「篠原さん、佐山でお願いします」

「おっと、いつもの癖で。わかった。じゃあ、先にタクシーでもどって」

「わかりました」

篠原さん達がランチに連れ立っていくのを見送って、私は一足先に帰社した。

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