副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
「わかりました。元々、私が同行するべきところでしたから。至らないかもしれませんが、よろしくお願いします」

私も頭を下げると、さっきまで殊勝な態度だったのが嘘のような、篠原さんの声が聞こえてきた。

「いやあ、助かるよ。美鈴ちゃん!!」

この人は調子に乗ると、誰彼構わずちゃんづけで呼んだりする。

「美鈴ちゃん、当日の服なんだけど……」

「篠原さん、〝佐山〟でお願いします」

「もう、相変わらずまじめだなあ。まあいいや。で、服装なんだけど、パーティーの場って、いかにも秘書ですっていうオフイスカジュアルだと逆に浮いてしまうんだ。だから、落ち着いた色合いのドレスがいい。今回は急なお願いだから、会社から支給ってことで、俺の方で選んでおいたから」

「はあ……」

「気の無い返事だなあ。美鈴ちゃんは美人さんだから、ドレスなんて着ておしゃれしたら、モテモテになりそうだな」

「セクハラ発言ですよ」

「いいや、褒めてるだけだ。さあ、このドレスだよ」

取り出したのは、少しラメの入った紺色のロングドレスだった。
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