副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜

アパレル会社の社長の長男として生まれた僕は、幼い時から後継だと決められていた。
教育熱心だった母は、将来のためを思って、僕にあれやこれや習い事をさせていた。
それに加えて、しつけの面でも厳しく育てられていた。
当時は、そういったことが息苦しくて仕方がなかった。
それでも自分が反発しなかったのは、全てが自分のためであることがわかっていたからだ。

そういった窮屈な日常の中で、佐山美鈴という少女の存在は強烈なものだった。

一人っ子だった僕は、幼い子が身近にいなかったせいか、発表会で見かけた、感情をストレートに表現する彼女が、物珍しかった。
彼女のことを羨ましく思ったこともあったし、微笑ましくも思っていた。

発表会の時期が近づくと、彼女を見かけることが待ち遠しくさえ感じた。
今年はどんな曲を弾くのだろうかと、プログラムを開くのも楽しみになっていた。