三月はいなくなる子が多いから
私は棚の小瓶を手に取った。

形はジルスチュアートの香水の瓶のようで
ただ理科室に置いてある薬瓶みたいな
光を通さない深い色をしている。

中にはいったい何が入っているのか、、
想像がつかない。


もう名前も顔も浮かんでこないけれど、
この小瓶をくれた転入生は言っていた。

「あなたが人生においてもっとも重要な判断を迫られたとき、
瓶の中のものを飲みなさい」


私は躊躇することなく、
瓶の蓋をあけて、瓶の中身を飲み干した。

新緑の森の中のような、
むせ返る生命の香りがした。

どろりとしたそれは舌や喉に絡みついて、
私に飲み込まれるのを嫌がっているみたいだった。

味はというと、、、
とにかく苦かった。

「麻衣は子供だから苦くないように作ったわ」


苦くないって言ったじゃん!


そう思いながら無理やり飲み込むと
つよい目眩に襲われた。


私は意識を失ってしまったようだった。
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