三月はいなくなる子が多いから
下駄箱でVANSを見ると、ようやく自分が泣いていて、
さっきまでよりもたくさん涙が溢れてきていることがわかった。
園田さんは少し苛立っているようだった。
トラヴィス・スコットとのコラボのジョーダン1のlowを
ボンっと履こうとしている園田さんは初めて私に言葉をかけてくれた。
「平野さんってさ、スニーカー好きなの?」
「…あ、ん、いや、ただVANSのスニーカー履いてみたくて…」
ふーん、と言う
園田さんの目には暗い光が輝いていた。
私はそんな様子には気づけずにいて
ただただ私の名前を知っていてびっくりしているだけだった。
昇降口を出ると、
「校門までは付き合ってやるよ。
誰にイジメられて、あたしを冷やかしにきたの?」
「……そんなんじゃ…」
こんな質問は想定していたけれど、
取り繕ったウソはいざとなると何も出てこない。
「ほら」
園田さんはそう言って、
校門へ指をさした。
園田さんの指は細長く、
ラメ入りの深い赤のネイルがされていた。
「ほら、あそこまで5分もないよ。
それ以上は付き合いきれねえから
早く言ってごらんよ」
どれだけ時間をかけて、
どれだけ精巧に組み立てたウソも
彼女を騙すことはできないと、
本能的に悟った。