三月はいなくなる子が多いから

「……理由がなかったから…」

これは一つも嘘がない。
正真正銘に私が先生を好きな理由だ。

もちろん他の人だって、
牧田先生はかっこいいし、
大人の余裕があるし、
それと同時に子供っぽい一面もあって、
魅力的なはずだ。

ただ、世界中を見れば牧田先生の上位互換みたいな人は
山ほどいるだろう。

じゃあ、なんで私にとって、
先生が特別で、唯一で、他の誰でも代わりにならない
そう言った、つまりは好きな人なのか。

さっき言った先生の好きなところは後付けだ。
結局は好きになるのが先で、
好きになった理由を無理やり見つけようとして
羅列したものにすぎない。

私が先生を好きになったのは、
理由がない。

ただ直感的に好きになってしまったのだ。
一年生の時、ひと目見て好きになり、
二年生になり、担任になって出席確認の時に名字を呼ばれるだけで
その日1日がキラキラとした。


理由はなかった。
そもそも理由は必要とも思わなかった。
好きになれたこと自体で充分であって、
それだけで牧田先生は私にとって、
この世界で唯一の存在であった。
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