三月はいなくなる子が多いから
「…あ、あの。
あなたのことまったく見覚えないんだけれど、
とりあえず、その子は関係ないから帰してくれないですか?
話は私が聞きますから。。
あなた…勘違いしているみたいだけれど、
園田マリエルは私のことです……」

震えていた。
それ以上に、自分でびっくりするくらい小さな声だった。
目の前の大男の不良に聞こえたかはアヤしい。


私は恐怖から嘘をついてしまった。
園田さんへの恐怖からとっさに出たのが
こんなどうしようもない嘘だった……

私のバレバレの嘘に、
私と園田さんを囲んでいる不良たちは目を見合わせ、
そして大笑いした。

「すっげーウケるけど、お前の冗談に付き合ってらんねーんだわ。
ちょー美人で身長が170以上、目の色が青、そう聞いてんの。園田って女は。
お前みたいな地味な女なわけねーだろ」

大男はまだ笑いながらそう言った。

校舎の方から、大きな声が聞こえた。
先生たちが私たちに向かって走ってきている。
きっと誰かが先生を呼んでくれたんだろう。

私は恐る恐る園田さんを見た。

園田さんは少し苛立っているようだけれど、
さっきのような人の心の奥を覗き見る、
天使とか悪魔とか妖怪とかそんなものしかできないような
目つきはしていなかった。


「…バカばっかだ、まったく……」

これは園田さんの独り言だった。


「おニイさんたちさぁ、
ほら、センセが来ちゃってんのよ。
どうせ今日がダメでも、あたしへの「用事」はしなきゃだろ?
また来られんのもメンド臭ぇから、ついてこいよ」


園田さんは不良たちを引き連れて
校門から狭い路地に入り、三、四回、右に左に曲がると、
人気(ひとけ)のない空き地に出た。

駅前の再開発で先日建物が解体された場所だ。


さて、なんでそんなことを私が知っているのかと言えば、
私は迷える子羊で、青い目の羊飼いに、
何も疑問を持つことなくついて行ってしまったからだ。

空き地で不良と対峙した園田さんは、
「一番のバカはお前だな……」
私にだけ聞こえるように、呆れてそう言った。
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