三月はいなくなる子が多いから
4_関外団地、グゥアバオは八角の香り
平野(ひらの)さん、大丈夫かぁ。怖かっただろ?」

確かに怖かった。
あの不良たちよりも園田(そのだ)さんが、、、
とは言えなかった。

ただへたり込んだまま、頷いた。


「お前のさ、牧田(まきた)への恋愛とかさ、ちょーいいと思うよ。
けどな、あたしと友達になることがその条件みたいになってんのが、
どうにも腑に落ちねえの」


空き地にはもう私と園田さんしか残っていなかった。
さっきまで暴力とそれを上回る暴力がこの場所に充満していたとは思えない。
遠くに駅の音がする、静かで寂しい場所に戻っていた。
静かに唸るのは園田さんのスマホだった。
電話にでるとひと言ふた言話すとすぐに切った。


「こんなことはそうそうないんだよ。
あっても年に一回か、そんくらいだ。
なんでお前があたしにちょっかいを出してきた日に限って
こんなことになったんだか…。
あたしはさ偶然とは思えないんだよ」

そう言って、何かを考えている風だった。


「あ、いた! マリー!
だいじょうかー?」

若い女性の声。
その女の人は手を振りながら園田さんの元へと小走りに近づいていった。
ベリーショートで少年のように見えるその女の人は、
色白で華奢に見えるが隣にいるのが園田さんだからというのもあるだろう。
身長は私より絶対高いし。

「あれー? 急いで買ってきたのに全然血ぃ出てないじゃん!
これ何に使うの?」

そう言って、コンビニの袋に入ったバスタオルを掲げた。

「フェイ、この子、クラスメイトで平野さんってお嬢さんだ」

どうも、とフェイと呼ばれた女性と会釈をしたが、
私はといえば腰を抜かして地面に座り込んだままだった。


「こいつ、腰を抜かした上に、お漏らししちゃってんだよ。
いくらあたしでもそれを放っては帰れねえもん」

絶句だ。
なんで私がおしっこを漏らしてしまったのを知っているの……

「ほら、肩貸すから、このタオル腰に巻いて」

「可哀想に。。マリーは怒ると怖いからね…。
近くにアタシの車あるから、そこまで頑張って」

そう言ってフェイさんも園田さんと同じように、
足に力の入らない私を支えてくれた。

「あたしは何もしてねーよ。こいつ泣いたり漏らしたり、
地味な見た目のわりにゃ、ガバガバなんだよ」

酷い言いようだ。
ただお漏らしがばれた私は恥ずかしくてうなだれた。


「マリーが派手なだけよ。
平野さん、家の場所ナビしてもらえる?
ちゃんと送って行ってあげるからね」


「フェイ、違うよ。
行き先は関外(かんがい)団地20号棟。
平野さんも、あたしたちの家にくるんだよ」
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