白い便箋を太陽に翳してみれば・・
再び想い出された記憶は、どれもが鮮明に想い出されて、決して色褪せたりなんかしていなかった。

「そんなことがあったんですね。実は私も妻を3年前に失ったんです。流星くんと同じように交通事故に巻き込まれたんです。救急車で運ばれて来た妻は全身血だらけでした。その時妻のお腹の中には子供がいました。ですが、どちらかを選択しなければいけない状況にたった時、妻が必死でこの子を救ってあげてと言ったんです。だけど決して二人を死なせたくはなかった。私は精一杯手を尽くしました。だけど結局・・妻は亡くなりました。そして妻のお腹の中にいる子供が助かりました。妻を救えなかった自分がどうしても許せなかった。医者という名前は、ただの肩書にしかすぎない・・。患者さんを救えなかったら意味がないんです。今も私はこの病院で働いていますが、それが自分にとって本当に正しいことなのか分かりません」

いつの間にか、先生の目からは涙が溢れていた。

「だから流星くんと花恵さんの姿を見て、決して彼を死なせてはいけないと思いました。私のように悲しい思いをしてほしくなかった。けど結局・・私は流星くんも救うことができなかった・・」

そう言った先生は、自分のこぶしを強く握った。

初めて聞かされた先生の辛い過去。
どことなく、あたしと似ていて切なかった。
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