Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
「もう、帰る!」
がばっと起き上がって匠くんに背を向ける。こんな朝っぱらから匠くんの色気に当てられて、心臓に悪い。寿命が縮んでしまう。
「亜子ちゃんってさ。無防備だよね、ホント」
呆れたような声が飛んできて振り返ろうとしたとき、背中にツツツとくすぐったい感触。残りの首も捻れば困った顔をした匠くんが私を見ていて、また失望させてしまったと少し凹む。
「それ。僕、見るの二回目。せっかくドレス脱がせるときは他の人にお願いしたのに、結局見せてくれるなんて。誘ってんの?」
ぱちんとゴムが肩に当たる感覚はデジャヴ。私はだらしない下着姿のまま背中を匠くんに向けていたのだ。慌てて布団を手繰り寄せて隠れる。本当、私、しっかりしろ。
「帰る」
しょげた心のまま、しょんぼりとした声でそう言う。
「だめだよ。これから新婚旅行だから」
「・・・?」
「新婚旅行」
そういえば昨日は気持ちだけ盛り上がってそのまま寝てしまったんだった。だからはっきりと聞いていなかった。私たちのカンケイのことを。
「わたしたちって」
「夫婦・・・見習い?」
「なんだそりゃ」
「つまりはイチから始めませんかってこと」
「イチってどのあたり?」
「あー・・・」
斜め上を見ながら考える素振りをした匠くんの唇がにやりと歪んだ。なんだか嫌な予感がする。
「僕らは色んなものすっ飛ばして、曲がりなりにも夫婦をしていたわけで。そんな僕たちだったら本当の夫婦までの十段階を、イチからハチくらいまでは新婚旅行の間に済ませちゃえるね」
済ませるという言い回しに、ぞっと悪寒を感じる。
「わっ、私は仕事があるので帰らせていただきます」
「だめ」
「社会人として、無断欠席というものは避けたい」
「大丈夫だよ。僕がお休み貰っておいたからね」
「・・・」
流石、策士だ。何もかも予測済み、手配済み。私たちの新婚生活は一体どうなるのかなんて、恐ろしくて想像したくもない。
「亜子ちゃん。逃げられないよ。僕が幸せにするから」
にっこりと笑った匠くんに、右の口角だけ持ち上げてお返ししておいた。私の旦那様は可愛くて格好良くて優しくて、気が利くけれどちょっとえっちで変態。それでも拒めない私は、きっともう骨の髄まで毒されている。