Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?



 匠くんの表情は見えない。耳元にかかる息、さっきまでとは違う低い声。急激に速まる鼓動が、昨夜何かがあったと告げている。でも、思い出せない。欠けてしまった記憶は、ころんと転がってどこかに無くしてしまった。

「昨日、私、なにか?」

 お酒の勢いに任せて未成年に手を出してしまったのか。先程までのドキドキとは全く違う、冷や汗さえ出ない緊張が身体を強張らせる。

「覚えてない?」

「___はい」

「そっか。でも、もう()ちゃ()()()しな」

「し、しし、しちゃった・・・」

「うん」

 そう言ってより一層強く抱き締められると、もうアレ(・・)を奪ってしまったとしか考えられない。


「は、初めて・・・デスカ?」

「当り前じゃん」

 恥ずかしそうに首元に頬をぐりぐりと押し付けられれば、それはもう確定で。

「責任取ります」

「___いい」

「でもっ」

 見切り発車で、ナニの責任をどう取るかだなんて自分でもわからない。それでも私は匠くんの大切なものを奪ってしまったんだ。
 匠くんの腕をぎゅっと握り、首だけ振り返る。ちゃんとした誠意を見せたくて。至近距離で見えた彼の表情は、なんだか悲しそうに見えた。

「僕のセリフだよ。責任取って幸せにする」

「・・・」

 なんだか飛躍している気がするようで、そうでもないような気もする。未成年の初めてを無理矢理奪った私は、責任を取って・・・幸せにする?
 眉を寄せて冷静になるように努める。まず私たちの出会いって・・・

「これ。よく撮れてるでしょう?」

 にっこりと微笑んだ匠くんの手に握られているのは、最近出たばかりの最新のスマホ。しかし見るべきものはそこに映っているもの。
 私と匠くんが映っている。それはいい。なんの問題もない。問題なのは二人で笑いながら手に持っているもの。 

「これ?」

「これ」

「これ・・・、私初めて見たんだけど」

「それは昨日も言ってたね」

「私が、書いた?」

「うん。書いた」

「これ、どこにあるの?」

「役所だよ」

「役所?」

「役所」

「受理?」

「された」

「じゃあ」

「僕たちは今日から夫婦だよ」


 オーマイゴッド!!!!


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