副社長の初めての相手は誰?
「父さん、名刺もらった? 」
「ああ、もらっているよ」
「じゃあ、僕が会いに行ってもいいかな? 絢を連れて」
「絢を連れて? 」
「ああ、だって返して欲しいって言っているんだろ? だから、返そうと思うんだ。その方が、絢だって幸せだから」
「そうだが。彼女は、お前に会う事を拒んでいるんだ」
「どうして? 」
「誘拐犯の夫に、会う事はできないと言っていた」
「ああ…そっか、そうゆう事ね」
ちょっと痛い笑みを浮かべた優輝。
「とりあえず、私は絢に話そうと思う。全てをね」
「…話してもいいと思う。…きっと、もうその時が来たんだ」
「ああ、そうだな」
それから。
その日はそのまま終わった。
病院にばれた女子社員は、意識不明の重体のままだった。
夜。
家に戻った優と優輝は絢に本当の事を話そうと思い、優の部屋に連れてきた。
絢は優輝と似ている。
目元は違うが顔の輪郭と口元がそっくりで、髪質も良く似ている。
だが、とても傷だらけで右目に眼帯をあてて、両手の甲は痣がある。
口元に殴られた跡も残っていて、足も無数の痣がある。
着ている服も古そうなピンク系の長袖のブラウスに、裾が綻んでいる紺色のスカート。
「絢、大切なお話しだから。ちゃんと、聞いてくれるかい? 」
優しい声で優輝が言うと、絢はゆっくり頷いた。
「あのね、絢。…絢は、お母さんとは血が繋がっていないんだ」
きょんとした目をした絢だが。
すぐさまニコッと笑った。
「知っているよ」
「え? 」
「だって、あの人がいつも言ってるよ。「あんたは捨て子だから、この家の人間じゃない」って言っているもん」
「そんな事を言われたのか? 」
「うん。でも、それが本当なら嬉しいって思っていたの。あんなに怖い人が、本当のお母さんだったら悲しすぎるから」
「ごめんね、絢。もっと早く、ちゃんと話せたら良かったんだよね」
「お父さんは悪くないよ。お父さんは、捨て子の私でも、とっても可愛がってくれてたから嬉しかったよ」
「絢…」
優輝はギュッと絢を抱きしめた。