副社長の初めての相手は誰?
駐車場に来て車に乗り込むと。
ピピっ…。
携帯電話の音が鳴った。
「あれ? 忍君の携帯が鳴っているみたい」
音は忍の持っている鞄から聞こえる。
ぐったりしている忍は、半分意識が朦朧としている中、携帯電話を取りだした。
画面を見るとメールが受信されたようだ。
画面を見ていると忍はぐったりとなってしまった。
「忍君? 大丈夫? 」
絢が声をかけても、忍はぐったりして返事をしなくなった。
「あ! 忍君の携帯電話の裏側に住所が書いてあるよ。お父さん」
絢は携帯電話を優輝に渡した。
「とりあえず、送って行こう」
優輝は車を発進させた。
住所から忍の住んでいるところに向かうと、そこは住宅地に数件のマンションが建っていた。
忍の住んでいるのは高級そうなマンション。
7階建ての最上階。
お客様用の駐車場まで数台用意してあり、オートロックでエントラスもオシャレで、ちょっとした休憩所みたいになっている。
お客様用の駐車場に車を止めた優輝は忍に声をかけた。
「忍君。家に着いたよ、大丈夫かい? 」
声をかけられると、忍がゆっくりと目を開けた。
「忍君? 大丈夫? 」
絢が声をかけると、忍はゆっくり頷いた。
「…ごめん…」
小さく謝る忍に、絢はそっと微笑んだ。
「大丈夫だよ。ねぇ、おうちには誰かいるの? 」
「…いないけど、大丈夫だから…」
答える声に力がない忍を見ていると、優輝は胸が痛んだ。
「忍君。お母さんに、電話してあげるから携帯電話貸してくれる? 」
優輝がそう言うと、忍は首を振った。
「いいえ、大丈夫です。…送ってもらいまして、有難うございました」
そう言って忍は車から降りた。
優輝と絢も車から降りて、歩いて行く忍を見ていた。
よろよろした足取りで歩い行く忍を見ていると、優輝は遠い記憶を思い出した。