副社長の初めての相手は誰?
(大丈夫です…ここからすぐなんで)
髪の長い可愛いびしょ濡れの女性が、優輝を突き放して言った。
そのまま歩き出す女性は、足取りがフラフラしている…。
様子を見ていると女性は倒れそうになった。
優輝は女性に駆け寄って、抱きしめた。
(まったく、何でそんなに意地っ張りなの? )
(ほっといてよ…)
強がりを言って優輝を振り払おうとする女性…。
優輝はその女性と忍が重なって見えて…。
思いより先に体が動き出して、忍の傍に駆け寄った。
「忍君、ちょっと待って! 」
呼び止められた瞬間。
忍はその場に倒れてしまった。
「忍君! 」
優輝が忍を抱きかかえると、真っ青な顔でぐったりとなっていた。
「お父さん、ちょっと携帯電話貸して忍君の」
「あ…はい…」
忍の鞄から携帯電話を取り出して優輝は絢に渡した。
絢は携帯電話の電話帳を見た。
秋田の名前を探して…
秋田希歩を見つけて、絢は電話をかけた。
呼び出し音が少し長めに鳴って…。
(はい、秋田です)
希歩が電話に出た。
「あ…お母さん? 」
(え? )
絢の声に希歩が驚いた。
絢は希歩の声に嬉しそうに笑みを浮かべた。
「私…絢です。…お母さんでしょう? 」
(…絢? …この電話は…)
「うん、忍君の電話だよ。今日ね、病院で会ったの。忍君、すごい熱で倒れていたから、送って来たの」
(送って来た? どうゆう事なの? )
「うん、話しは後でいい? 忍君、すごい熱だからおうちに連れて行っていい? 」
(あなた一人で行けるの? )
「大丈夫、お父さんも一緒なの」
(え? …)
「お父さんが連れて行ってくれるから、おうちに運んであげていい? 今、忍君の家の下にいるの」
(…分かったわ。忍の鞄の内側のポケットに、鍵があるから。…1時間以内に戻ります)
「うん、分かった。慌てないで、いいからね。気を付けて戻って来てね」
(はい…)
絢が電話を切ると、優輝が忍を抱きかかえ家まで連れて行った。
最上階7階は1部屋しかない。
鍵はカードキーで、玄関はおしゃれな青色。
傘立てが可愛い犬の模型でできている。
中に入ると玄関先に洗面所と浴室とトイレがあり、その先に洋室は2つ。
奥に行くとリビングとキッチン、そして和室。
その奥に洋室が1部屋ある。
わりと広々とした部屋どりで、眺めもいい。