副社長の初めての相手は誰?

「絢がそうしたいと言っています。ここに、置いてもらえませんか? 」


 優輝が言った。


「ですが、今はまだ…」

「いいんですよ、どちらにしても。絢をお返しするつもりでしたから」

「…それは…」


「叔母の家より、貴女の傍にいる方が。絢は嬉しそうですから、お願いできませんか? 」

 
 絢が希歩の袖を引っ張ってきた。

 希歩を見つめて「一緒にいたい」と言っている目をしている。


「分かりました。それでは、お預かりします。まだ今は、お預かりしているという状態になりますので」


 希歩の返事に、優輝は安心した笑みを浮かべた。


「分かりました。では…」


 名刺を取り出し、優輝は裏側に自分の携帯番号を書いて希歩に渡した。


「この名刺は、僕の名刺です。裏側に、僕の個人用の携帯番号を書いていますので。何かありましたら、こちらに連絡をお願いします」

「はい…分かりました」


 名刺を受け取る希歩の手が、少し震えていた。

 動揺しているのか、緊張しているのか。

 なるべく優輝と目を合わせないように、希歩は視線を反らしていた。


「では、僕はそろそろ帰ります。まだ仕事がありますので」

「はい…」

 
 優輝はそっと、希歩の手を取った。


 え? と…。

 希歩は驚いて優輝を見た。


「やっと、僕を見てくれましたね」

 そう言って、優輝は微笑んでくれた。

「ずっと、目を合わさないようにされていたので」

「い、いえ。…そんな事は、ありません…」


 と、また視線を落としてしまう希歩。


「もう、何も心配しなくていいですよ。誰も…貴女の事を、傷つけたりしませんから…」


 ギュッと手を握られて。

 その手から暖かいエネルギーを感じると、希歩の気持ちがフッと軽くなったのを感じた。


 少し戸惑い気味に優輝を見る希歩。


 優輝の目は「心配しないで」と言っているように見えた。



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