副社長の初めての相手は誰?
優はゆっくりと顔を上げて、希歩を見つめた。
「…希歩さん。…絢を産んでくれて、本当に有難うございました。9年の月日、絢と一緒に過ごせて私達はとても幸せでしたよ。絢には、とても辛い想いばかりさせてしまいましたが。あの子の優しさに、どれだけ救われたか分かりません。絢はきっと、貴女の優しい血筋を引いているのでしょうね。とても我慢強くて、それでもいつも笑顔を向けてくれたのです。…この10年、私達家族も随分と苦しんできました。貴女の苦しみに比べれば、大した事じゃないかもしれません。でも、もうここで終わりにしたいと思っています」
書類を手に取り、優はそっと微笑んだ。
「これに全て記入すると、絢は貴女の下に帰ることが出来るのですね? 」
「…はい…」
「分かりました。喜んで記入致します。もう、貴女も幸せになる事だけを考えて下さい。ずっと、お一人で抱えて辛かったと思われます」
書類をテーブルに置いて、優は内ポケットからボールペンを取り出した。
必要な部分を記入し始める優。
「部分的に、優輝の記入も必要の様ですがどうしますか? 」
「後日、他の弁護士に頼んで記入してもらうために対応したいと思います」
書く手を止めて、優は希歩を見つめた。
「優輝とは会いたくないのですか? 」
「…できるだけ、避けたいと思っています。…」
「それは…貴女のお気持ちが、揺らいでしまうからですか? 」
何を言い出すの…。
ちょっと図星を指され、希歩はフイッと視線を反らした。