副社長の初めての相手は誰?

「ある事故で、彼女の足が動かなくなり。責任を負わされ、結婚させられました。でも、僕は自分の心にまで嘘はつきたくなかった。だから、結婚したふりをしただけなんです」


 結婚したふり? 10年も、そんな事してたと言うの? 


「信じてもらえないなら、戸籍を見せてもいいですよ。彼女はただの居候ですから。表向きは結婚した事にしていますが、僕は彼女と一度も関係を持ったこともありません。寝室だって、ずっと鍵をつけていて。勝手に入って来るときもありましたが、そんな関係になった事は一度もありません」


 そんな事…。

 ちょっと半信半疑の希歩だが。

 春美は他の男と平気で浮気をしていた。

 そして、いつもイライラしているようだった。

 それは、優輝が相手にしない事からだろう…。

 だから絢にも酷い仕打ちをしていたのだろう…。


 納得はできる事ばかりだった。


 でも、だとしたら絢は?

 絢はどうなっているの? 


 戸惑いながら、希歩は優輝を見た。


「…絢は…どうなっているのですか? あの子の戸籍は…」

「絢は、僕だけの子供になっています。僕が、子供を助けて引き取った事にしています」

「…それならどうして? …ずっと、絢が酷い事をされているのに。…黙っていたのですか? 」

「黙っていたわけではなく。絢が、いつも自分で転んだと言っていたので。その言葉を信じていただけだったんです。転んだにしては、おかしいと感じていたのですが。絢はとても優しい子で、いつも「大丈夫だよ」って、笑ってくれていたので。…すみません…」


 絢ならそう言いそうだ。

 だって忍も、いつも平気だと言って笑っていたから。

 お父さんの事を誰かに聞いても、お父さんについて聞いて来る事はなかった。

 絢と同じ笑顔でいつも傍に居てくれた…。

 離れていてもやはり同じなんだ…
 

「希歩さん…」

 名前を呼ばれて、希歩はドキッとなった。
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