副社長の初めての相手は誰?
しばらくして。
朝食が運ばれてきた。
ご飯とお味噌汁と味付け海苔、そして焼き魚と卵焼き。
和食の朝ご飯である。
ベッドを起こして朝食を食べ始める忍だが、手が痛くてうまく食べれないようで、ご飯をこぼしてばかりだった。
「忍君。ちょっと、手伝ってもいい? 」
優輝がスプーンで、ご飯を口に持って来てくれた。
「い、いいよ…自分で食べるから…」
ちょっと恥ずかしそうに、忍は頬を赤くした。
「何言っているの。怪我したばかりだよ、まだ手が痛むでしょう? 」
「べ、別に…」
「いいから、いいから。怪我しているときくらい、甘えてもいいんだよ」
ムッとしている忍だが、手の痛みにはたえられなくなり、仕方なく優輝に食べさせてもらう事にした。
無愛想に口を開ける忍だが、食べるご飯が美味しくてちょっとだけ表情が緩んだ。
忍は朝食を食べ終わると、ちょとだけ和らいだ表情になっていた。
「あ、口汚れているよ」
おしぼりで、口を拭いてくれる優輝を、忍はじっと見つめた。
「どうしたの? 」
「…別に…。姉ちゃんに似ていると思っただけだ…」
「姉ちゃん? もしかして、絢の事? 」
「そうだけど…」
「そっか、絢の方がお姉ちゃんになるんだね」
「…姉ちゃんの方が後から出て来たから…」
と、忍はギュッと優輝の手を握って来た。
「…俺は…母さんを護る為に…傍に残ったんだよ…」
愛想のない顔の忍だが、なにかキュンとなる思いが伝わってきたのを、優輝は感じた。
「姉ちゃんは、あんたを護るって言っていた。…そうする事で…母さんと、あんたを引き合わせる事が出来るからって…姉ちゃんが言ったから…。そう決めて…俺と姉ちゃんは、産まれて来たから…」
「そうか…。だからなんだね? 絢が、忍君の事を知っていたのは」
ゆっくりと忍は頷いた。