副社長の初めての相手は誰?
「…本当は。病院の次の日に、会う約束してたけど…。俺が、一日早く病院に行ったから…」

「そうだったのか。それでも、ちゃんと会えたんだね」


「…俺と姉ちゃんは、離れていてもちゃんと解りあえる。…離れていても、話しをする事だってできるから…」

「そっか。何となくわかるよ、僕も忍君の気持ちをハートで感じるから」


 え? 

 ちょっと驚いて、忍は優輝を見た。



「忍君も解るんだろう? 僕のハートが」

 ちょっとシレっとして忍は俯いた。


「…俺の話した事、そんな簡単に信じてくれるのか? 」

「もちろん信じるよ、どうして? 」


「わけわかんねぇって、思わないのか? 」

「思わないよ。だって、忍君は僕の子供だから。信じているよ、嘘つく子じゃないって」


 俯いている忍の目が潤んできた。

 何かが込みあがってきて…。

 怪我をしていない左手でギュッとこぶしを握り締めた忍。


 その手を覆うように、優輝はそっと包み込んだ。


「僕は全部信じるから。話していいよ、ちゃんと向き合いたいんでしょう? 」

「わかんねぇよ…。だって…昨日までずっと、あんたの事。母さんを捨てた酷い奴って、本当は思ってたから…。でも…なんだか分かんねぇけど…。今日は…嫌いになれないから…」

「忍君…」


 そっと、優輝は忍を抱きしめた。

 抱きしめられると、忍は素直に泣き出してしまった。


「いいよ、思い切り泣いて。ずっと、泣かないで我慢してきたんだよね? お母さんを護る為に…。もういいよ、泣きたい時は泣けばいい。笑い時は思いきり笑えばいい。素直に感じるままに表現していいから」


 そう言われても、忍はとても複雑で分からない感情が込みあがってきた。
 
 ドン! ドン! と、優輝の背中をげんこつで叩きだした…。


 片手で必死に優輝の背中を叩く忍は、まるで小さな子供が駄々をこねているように見える。

 優輝はそんな忍が可愛くて、ギュッと抱きしめた。


「…本当は、もっと早く見つけて欲しいって…思っていた…」

「うん、そうだね」


「姉ちゃんが…お父さんは優しい人だよ。ってずっと、言ってた…」

「絢が、そんなふうに言ってくれていたんだね。嬉しいなぁ」


 キュッと弱い力で、忍は優輝にしがみ付いてきた。

 その感覚がとても愛しくて、優輝の胸がキュンとなった。


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