副社長の初めての相手は誰？

「…母さんの事。…捨てたんじゃないの？　…」

「そんな事していないよ。ずっと、探していたんだけど。お母さんが、あんまり綺麗になり過ぎていて、気づくまで時間がかかってしまったんだ。ごめんね…」


「…俺の事…嫌な奴って…思っただろう？　」

「どうして？　」

「だって…あんたの事、嫌いだって言ったし。…叩いたし…」

　
　やれやれ。

　優輝はなんとなく忍の気持ちが判った。


　これはちょっとした反抗期みたいなもので。
　
　甘えたい気持ちと、意地張っている気持ちが同時にやって来たのだろう。

　ずっと、希歩を護る為にしっかりしなくてはと頑張って来た忍だが、本当は誰かに甘えたかった。

　でもそれが出来なかった。

　やっと会えたお父さんに、嬉しい気持ちもあるが、もっと早く会いたかった気持ちも込みあがってきて、それが溢れてしまったのだろう。



　この気持ちは、優輝も子供の頃同じことを経験している。

　母の光を護る為に、誰にも甘えることなくしっかりしなくてはと、いつも自分を奮い立だせていた。

　だが父の優に出会って、とても暖かいエネルギーで包んでくれて。

　初めて誰かに甘えてもいいのだと知った。


　優はずっと光を探している間、日記をつけていて、そこには溢れんばかりの想いが書かれていた。

　それを見た時、優輝は優がどれだけ光を大切に想っていてくれたのかずごく分かった。

　
　光と優が再会して、結婚が決まってすぐに妹を授かった時、優は赤ちゃんが産まれるまでずっと優輝に言葉では言い表せないくらいの愛情を与えてくれた。

　もう一人産まれたら、暫くはそっちにどうしても手がかかるからと言って、離れていた月日を埋めるまではいかなくても優輝を愛したいと言ってくれていた。

　
　優輝も今、忍を思いきり愛してあげたいと思った。

　
「忍君。何を言われても、何をされてもね。心から愛している人への気持ちは、絶対に変わらないんだよ。離れていたけど、忍君と初めて会った時からすごく嬉しくて。愛しくてたまらなかったよ。叩かれたって、全然怒り何て湧いてこない。やっと、忍君に近づけたかな？　って思えたよ。だから、一緒にいてくれるかい？　これからは、ずっと」


　泣き出してしまい、忍は何も答えることが出来なくて、小さく頷くしかできなかった。

　優輝はヨシヨシと、そっと忍を慰めた。