副社長の初めての相手は誰?
それから。
10時を回る頃、希歩が病室に来てくれた。
それと入れ替わりに、優輝は仕事に向かうと言って帰って行った。
忍はとても穏やかな表情をしている。
そんな忍を見ていると、希歩はとても安心した。
「母さん…」
「ん? どうしたの? 忍」
「…俺の事突き落としたの。…あの春美だから…」
「え? 」
忍は床頭台の上に置いてある携帯電話を指さした。
「俺の携帯に、動画がある。…そこに写っている…」
言われた通り、希歩は忍の携帯を見てみた。
すると動画が撮影してあり、春美が通り過ぎて忍を着けてきている姿が映っている。
そして後ろから近づいて来て、春美が忍の背中を押した!
その勢いで忍は階段から転がり落ちてしまった。
動画を見て真っ青になっている希歩。
「…ちゃんと映っているだろう? …それを、警察に届ければ。あの女は逮捕されるから」
「忍。貴方、まさかわざとあの人に近づいて行ったの? 」
「…だって…俺嫌だもん。…母さんが、辛い思いしているの。…だから…終わらせたかった…」
「そんなことして、怪我だけじゃ済まなかったらどうするの? 」
「俺は、母さんが辛い思いをする方が死ぬより辛いよ…」
ゆっくりと忍は希歩を見つめた。
「もう、母さんには幸せになって欲しいから。自分に素直になっていいよ。俺は、母さんについて行くから。母さんが選んだ人なら、俺は信じられるから」
とても素直な忍を見て、希歩はなんとなく優輝と重なって見えた。
熱を出してから、忍はどこか拗ねているのかちょっと愛想のなかったのを心配していた。
だが今の忍は、とても素直で出会った頃の優輝のようにとても穏やかな表情をしている。
「母さん…なんだか、顔が変わった気がするよ」
「え? そんなことないわよ」
「ううん…なんだか…。とっても綺麗だから…」
と言って、忍は頬を赤くして俯いた。
「忍…」
そっと希歩が忍を抱きしめた。
「有難う忍。本当に、貴方は…お父さんとそっくりね…」
「当り前じゃん…親子だもん…」
「そうね…」
希歩の腕の中で忍は小さく笑っていた。