副社長の初めての相手は誰?
「10年前。お前に好意を寄せていた女子社員が、非常階段から転落した事覚えているか? 」
「ああ確か。僕に告白した次の日に、転落したね」
「その後も、お前に好意を寄せたり、親し気にした女子社員は。次から次へと、怪我をしたり事故にあいそうになったり。持ってきた飲み物に、劇薬を入れられたりと不可解な事件が続いた。そして決め手が…あの事だよ…」
あの事と言われて、優輝はハッとなった。
優は机の引き出しから封筒を取り出し手に取った。
「お前に話さなくてはならない事がある」
優輝の向かい側に座って、優は封筒を差し出した。
「この中に絢のことが書いてある」
優輝は封筒を受けとり、中の書類を読んだ。
読んでゆくうちに、優輝の顔色がみるみると変わってゆく…。
「これは、誰が調べたの? 」
「今日、国際弁護士の秋田と言う女性弁護士が来たんだ。その人が私に言った。…娘を返して欲しいと…」
「娘を? 」
「ああ、9年前にアメリカで子供を産んだ時。産まれて間もなく誘拐されたそうだ。ずっと捜索していたが、アメリカでは見つからなかった。日本で捜査したら、絢にたどりついたそうだ」
書類と一緒に着いている写真をみて、優輝は驚いた。
写真には黒っぽい恰好で、帽子を深くかぶった女性が赤ちゃんを連れて行く姿が写っている。
見える口元は春美とそっくり。
病院での検査結果も春美とは親子関係はナシと書いてある。
優輝は思いだした。
9年前アメリカに出張で行った時。仮住まいにいた頃。
春美は赤ちゃんが捨てれいると言ってきた。
玄関外に、まだ産まれて間もない赤ちゃんが置かれていた。
ずっと外にいたのか冷えている赤ちゃん。
その赤ちゃんを抱っこした時、優輝は胸がキュンとなった。
春美はその赤ちゃんを養女にすると言い出した。
どうせ捨てられた赤ちゃんだから、拾ってもいいと言ったのだ。
ちょっと気が引けた優輝だが、何故か赤ちゃんと離れたくなくなって。
そのまま手続きをして養女として引き取って、日本に帰ってきた。
女の赤ちゃんに絢と名付けた。
見ていると可愛くて愛しくなる。
それは…ある人を思い出すからだった…。
春美は喜んでいたが、育児には全く無関心でほとんど優と光が面倒を見ていた。
誘拐してきた赤ちゃんを、捨て子に見せかけて養女にしたのに、何故無関心なのか春美の気持ちは分からなかった。
「父さん、秋田弁護士ってどんな人? 」
ふと、優輝が尋ねた。
「そうだな。目が、絢とそっくりな人だよ。透き通る綺麗な目をしていた。女性にしては背が高くて、ちょっとがっしりしていたよ」
「そうなんだ…」
優輝は今朝、エントラスですれ違った女性を思い出した。
背の高い、ちょっとがっしりした感じの女性。
俯いて顔を隠しているようだった。