夜空に君という名のスピカを探して。
「今までの俺は家族の温もりとか、友情や恋だとか、正直くだらないって思ってた。それから夢も自由も手に入らないって、望むだけ無駄だって諦めてたんだ」

『宙くん……』

「でも、そんな俺の価値観を楓がぜんぶひっくり返した」

『私が?』

「俺に友達っていう居場所をくれた。自分の夢を言葉にする勇気をくれた。家族から逃げていた俺に向き合うための力をくれた」

『そんな……それは宙くんがもともと持ってた力だよ』


 彼を変えられるほど、自分に力があるとは思えない。

だって私は、なにも変えられずに逃げ出して、すべてを失ったのだから。

「いや、違う。楓と出会わなければ、俺は狭い視野でしか世界を見れないままだった」

 宙くんが最後の段に足を乗せると、あの公園へと続く坂を上がり始めた。

「きっと、俺たちが出会ったのは運命だ」

『運命……』

「楓は俺を救うために、会いに来てくれたんじゃないかって思うんだ」

 私も彼と出会ったからこそ、自分の足りないものに気づけた。だから運命という言葉がしっくりくる。

『私もそう思うよ』

 返事をすると同時に、公園にたどりつく。

空は彼の瞳のように黒く、美しい星を数多に輝かせて見守ってくれている。

「楓……そうか」

 彼の“そうか”はどこか嬉しそうに聞こえて、私の心も普段より素直になる。

『私、宙くんに偉そうなこと言ってたけど、本当はすごく弱虫で後悔ばっかりだった……』


 宙くんが公園の中央へと歩き出す。

土を踏む感触や草の匂い、瞬く星の美しさ、もう二度と見れるはずのなかった景色がここにある。

私は君を通して、もう一度世界を見つめている。

君に出会ってから得たものが、たくさんあった。


『前に、私も夢を家族に認めてもらえなかったって言ったよね』

「あぁ」

『認めてもらえなくて、どうして分かってくれないのって逃げ出して家を飛び出した。それから全力で走って……っ』


 鼻の奥がツンと痛んだ。

たぶん泣くんだろうな、なんてどこか他人事のように考える。

そんな私に気づいた宙くんは「ゆっくりでいいから」と私の言葉を待ってくれていた。

それに励まされて、続きを話す。


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