夜空に君という名のスピカを探して。
「分かってくれないなら、もういい!」


 そう言い捨てて踵を返すと、私は玄関へリターンする。

せめてもの反抗に、ドスドスと大きく足音を立てて走ってやった。

玄関でローファーをもう一度足に引っ掛けると、手ぶらでドアの取っ手に手をかける。

やけに取っ手が冷たく感じたのは、私の身体と心が怒りやもどかしさに火照ってていたからかもしれない。


「楓、こんな時間にどこへ行くの!」

「戻ってきなさい、楓。母さんの夕食の準備も手伝わないとだろう?」


 振り返ると、お母さんとお父さんがゆっくりとした足取りで廊下に出てくるのが見えた。

焦った様子もなく駄々をこねる子供を見るような目を向けてくる両親に、私の決意もどうせ一時のものだろうと軽く捉えていることは一目瞭然だった。

 それになおさら、言葉に出来ない刺々しい感情が膨れ上がる。

 お父さんとお母さんが分かってくれないなら、二度と許可なんかとるもんか。

 取っ手を強く握り、ドアを開け放つ。

このときの私は完全にぶち切れていて、彼らの声を無視すると勢いよく家を飛び出した。

 ──走る、走る、走る。

 東の空はすでに宵の闇を連れてくるかのように暗く、私はまだ明るい西の茜空を目指して全速力で駆けていた。


「信じられない、分からずや!」


 長い髪を振り乱しながら、ときどき頬を打ちつけるのも気にせずに、高台にある私の家の前の坂を下りていく。

 目的地なんてないけれど、今は少しでも遠くへ行きたかった。


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